『きらいなうた』『はるのうた』
■作品ガイド:舞台写真や、作品にまつわるコラムはこちらをClick!
殺したくなかったのに、殺さなければいけなかった人たちに
戦へ向かうお父さん、
—– アカラ 『きらいなうた』 より
泥を浴びて手に入れたものが、沁みるように 揺さぶるように
あなたのきらいな歌をうたう。
鉄砲にぎるお兄さん、
あたしと寝た日を忘れないで。
ごめん、ごめん、、と震えるその胸、
撃ち抜く前に思い出して。
東京大空襲を題材にした『河童の道行』、原爆を題材とした詩の朗読と、“戦争をその身で体験した人々”のことばで紡がれた作品をお届けいたしましたが、対してこの『きらいなうた』は、実体験としての戦争を知らない世代が、戦争のなくならない世界に想いを馳せて紡ぎ出した作品です。
「戦へ向かうお父さん」「鉄砲にぎるお兄さん」そう歌われている兵士たちは、その歌詞のとおり、戦場に赴く前はひとりの父であり、息子であり、また母や娘でもあったでしょう。
あたりまえの生活を営み、大切な家族や友人のいる、善き人々であったのでしょう。
日本でも戦後、戦地から戻ってきたら人が変わってしまったという「父」たち「兄」たちが数多くいました。
善き人々だったはずの彼らは、殺さなければ殺されるという極限の中で、国を、家族を、あるいは自分を守るために、心を殺し、人を殺し、同胞を見殺しにし、屍を踏みつけて生き延びてきた。
そうして守ったはずの国は、彼らに何をしてくれたのでしょうか。
「戦争トラウマ」ということが問題として取り上げられるようになったのは、ベトナム戦争のころからですが、遡れば、世界各国で戦争により「加害者」にならざるをえなかった、お父さん、お兄さんたちの、どうしようもない心の闇が、次の、その次の世代まで影を落とし続けてきました。
殺さなければ生きられなかった人たち。そうして生き延びても、何も救われることはなかった人たち。
彼らがむけた銃口の先にあったものは何なのか。遠い彼の地のことではなく、今世界でおこっている私たちの問題として、心に留め続けたいと思います。
抑圧されたエネルギーを体中に漲らせた小泉さんの舞踊の中に、兵士たちが必死にあがき生きようとした証を見て、中川さんの歌声と、じゅんさんの奏でる二胡の音色が、あたたかく優しく、本来の「善き人々」の存在を認めて、救ってくれているように感じます。
つづく『はるのうた』が一層心にしみるのは、新しい季節の光が、すべての存在をやさしく包んでくれるように感じるからでしょうか。
新宿にある「平和祈念展示資料館」は、シベリア抑留された方や、満州から引き上げてきた人たちの遺留品などが展示されており、戦中戦後の様子を様々な資料から学べる施設です。
中には触ってみたり、音で聞いたりできる展示もあります。撮影OKの場所も多く、QR コードを読み取ってスマホで解説が見られるなど、工夫がこらされています。
平和記念展示資料館は、入館無料です。
シベリアと満州にスポットがあてられた施設で、どちらかといえば「被害者」の視点に寄った展示です。日本も加害者だった事実も学ばなければならないと思いますが、戦争と言うものをいろいろな側面から知って感じて、話し合う、そんなきっかけの一つにしてはいかがでしょうか。
出演者・スタッフ
『きらいなうた』『はるのうた』
作詞・作曲/中川えりか 編曲/アカラ
舞踊/小泉憲央(Studio ALMA) 『きらいなうた』
演奏/アカラ
こたにじゅん(二胡)
中川えりか(二胡と唄)
音響/吉川安志 照明/阿部千賀子 舞台監督/小立哲也 制作/小原美紗
撮影・編集/中出三記夫
撮影日:2023年11月25日 19時 会場:プーク人形劇場
■小泉憲央
桐朋学園芸術科演劇専攻卒。東京演劇アンサンブルを経て、西田堯舞踊団へ。2022年、劇団「studio ALMA」を結成。オリジナルの舞踊劇の作・演出・振付を務める。
studio ALMA
公式Instagram / X(旧Twitter)
■アカラ(こたにじゅん、中川えりか)
日本人では数少ないプロの二胡奏者のユニット。「ツイン二胡と唄」の独自のスタイルでジャンルを越えて支持され、国内外で活動中。中国公演は来場者記録を更新。
大地に根差したかのように響く野太い歌声から、聞く者を優しく包む微かに響く細い歌声まで、圧倒的な存在感を放つ中川えりかの声。二胡のこたにじゅんは、一般的な二胡の音色を思わせる流麗さも奏でつつ、その真骨頂は、太く強い音色と、確かに聴こえるか細く繊細な音色の使い分けによる、楽器とは思えないほどの歌わせぶりにある。
アカラ
ホームページ
X(旧Twitter) こたにじゅん 中川えりか
Youtube 二胡っとチャンネル ERHU POPs FACTORY